製造業のKPI集計、月〇〇時間? — 作業を分解してみる

金曜の17時、生産管理部の係長Aさんはコーヒー片手に席へ戻ってきます。来週月曜に控えた月次品質会議の資料作りが残っているからです。

机の右側には先月分の帳票が500枚分。これを1枚ずつExcelに転記し、関数を修正し、グラフを差し替える——。Aさんは小さくため息をつきました。「来月もまた、これをやるのか」と。

決して特殊な光景ではありません。多くの製造業の現場で、月末から月初にかけてのKPI集計作業は、いまもExcelとともにあります。そして「月に20時間くらい」と聞かれれば、ほとんどの担当者がうなずく数字でもあります。

ただ、その20時間が 何にどれだけ使われているのか、丁寧に分解されたことはあるでしょうか。本記事では、KPI集計作業の中身を6つに分解し、20時間の正体と、そこから次の一歩を探る視点を整理します。

目次

KPI集計の作業を6つに分解する

「KPI集計」と一言で言っても、その中身は単純ではありません。実際に手を動かしてみると、おおよそ次の6つの工程に分かれています。

製造業のKPI集計プロセスと月の所要時間(目安)
#
工程
主な作業内容
月の所要時間
(目安)
1
帳票・データ収集
紙帳票の回収、電子帳票のエクスポート
3〜4時間
2
Excelへの転記
数値を1件ずつ入力、紙からの読み取り
5〜6時間
3
関数・式の修正
月をまたいだ参照範囲の更新、壊れた数式の復旧
2〜3時間
4
グラフ・表の更新
グラフの差し替え、配色やレイアウトの調整
2〜3時間
5
数値の確認・突合
前月比較、明らかな異常値の検出、原票との照合
2〜3時間
6
報告書化
パワーポイントへの貼り付け、コメント追記、印刷準備
3〜4時間
合計の目安
約17〜23時間/月

合計すると、確かに月20時間前後に収まります。注目してほしいのは、「集計の本質的な仕事」と言える工程が、この6つの中にほとんど含まれていないことです。

転記も、式の修正も、グラフの差し替えも、データを「使う」ための準備にすぎません。本来の仕事は、出てきた数字を読み解き、次の打ち手を考えることのはずです。

なぜ毎月同じ作業を繰り返すのか

ここで一度立ち止まって考えたいのは、「なぜこの作業が、改善されないまま毎月続いているのか」という問いです。

理由はいくつか重なっています。

第一に、Excelは一見すぐに動く道具だということです。新しいシステムを導入するには稟議も時間もかかりますが、Excelなら今日から始められます。結果として、最初は「とりあえずExcelで」始まった集計が、何年も使われ続けます。

第二に、属人化が進みやすい構造です。担当者が現場のニーズに合わせて式を組み、シートを増やし、独自のルールを足していきます。便利になっていく一方で、その仕組みは作った本人にしか理解できないものになっていきます。「Aさんに聞かないと分からない」状態は、引き継ぎのたびに大きなコストを生みます。

第三に、改善のきっかけが見つかりにくいことです。20時間という負担は、毎月コンスタントに発生するため、「異常」として認識されにくくなります。突発的な障害なら声が上がりますが、慢性的な作業負担は、見過ごされていきます。

つまり、Excel運用が抜けられないのは、担当者の努力不足ではなく 仕組みとしてそうなりやすい構造 だからです。

月20時間の本当のコスト

20時間という数字を、もう少し別の角度から眺めてみます。

人件費の観点で言えば、係長クラスの工数として年間で約240時間。決して小さい額ではありません。ただ、本当のコストは金額換算できる部分の外側にあります。

ひとつは 意思決定の遅れです。集計が終わるのが翌月の5営業日後だとすれば、不良が発生した月の半ばには、もう次の月の業務が始まっています。原因を分析して対策を立てる頃には、現場の記憶も薄れ、当事者意識も冷めています。

もうひとつは 担当者の心理的負担です。月末が近づくたびに、まとまった時間が確実に削られる。集中してデータを読み解く余裕が削られていく感覚は、数値には表れません。

そして、転記ミスや式の崩れが見過ごされたまま会議資料になり、後で判明する事例も少なくありません。集計ミスが品質判断に影響するリスクは、業務全体にとって決して軽くない問題です。

一歩目は「分解して見える化」

ここまで分解してきたとおり、KPI集計の負担は 「集計」そのものではなく、集計するための準備工程に集中しています。

ということは、改善の方向性も明確になります。すべてを一気に自動化する必要はありません。たとえば、転記工程だけでも電子帳票からの自動取り込みに置き換えられれば、月5〜6時間が削減できます。グラフ更新だけでもダッシュボード化できれば、月2〜3時間が削減できます。

ただ、その前にやるべきことがあります。それは、自分たちのKPI集計を一度、工程ごとに分解して計測してみることです。

Aさんの職場でも、6つの工程ごとにストップウォッチで時間を測ってみたところ、思っていた以上に「転記」と「式の修正」に時間を取られていることが分かりました。改善の優先順位がはっきりすると、次の打ち手の議論が一気に具体化します。

「全部を変える」ではなく「どこから変えるか」。その判断材料を持つことが、Excel依存から抜け出す最初の一歩になります。

まとめ

製造業のKPI集計でかかる月20時間は、決して怠慢の証ではなく、Excelという便利な道具と、現場ニーズに応えてきた歴史の積み重ねです。ただ、その20時間の中身を分解してみれば、本来の仕事(数字を読み解いて改善につなげる)から離れた工程が大半を占めていることも、また事実です。

弊社では、製造業の現場で繰り返されているこの構造を解消するため、電子帳票や紙帳票のデータを自動でKPIに変換する仕組み「KPIナイセイくん」を準備しています。

「数字を作る時間」を「数字を使って改善する時間」へ。その転換を、皆さまの現場でも始めてみませんか。

この記事を書いた人

約8年間、自動車部品メーカーの技術開発部門で製品の設計・開発、工場生産ラインの構築・準備と幅広く経験を積みました。2021年に転職後、システムエンジニアとして、主にバックエンドおよびデータベース周辺の設計・実装・運用に従事します。業務ロジックの整理からAPI設計、データ連携、KPI算出ロジックの構築まで、ビジネス要件とIT技術の両立を重視した開発に取組みます。その後、スマートファクトリー化を目指す製造業クライアントに常駐しながら、現場課題を本質から捉えたシステム導入支援を担当します。技術領域にとどまらず、運用・保守性など多面的な観点から企業の課題に寄り添う仕組みの構築を手がけました。

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