従業員60名の金属加工メーカーで、生産管理を担当するAさんは、月次の設備稼働率を取りまとめて経営会議に提出しています。ある月の会議で、上司からこう指摘されました。「この工場全体の稼働率、計算が合っていないんじゃないか」。
Aさんは各ラインの稼働率を出したあと、それらを単純に足して台数で割り、工場全体の稼働率としていました。3ラインがそれぞれ90%・85%・60%なら、平均は約78%。一見、何の問題もない計算です。ところが上司が指摘したのは、「フル稼働しているラインと、ほとんど止まっているラインを、同じ重みで平均していいのか」という点でした。
これは決してAさんの会社に限った話ではありません。多くの製造現場で、複数ラインや複数期間の稼働率をまとめるときに、何気なく単純平均を使い、実態とずれた数字を経営に報告してしまうことが起きています。本記事では、稼働率の集計でつまずきやすい「平均のとり方」を整理し、なぜ加重平均が必要なのかを基礎から解説します。
まず確認:稼働率そのものの計算式
平均の話に入る前に、ラインあたりの稼働率の計算を確認しておきます。時間稼働率は、次のように求めます。
時間稼働率 = 稼働時間 ÷ 負荷時間
たとえば、あるラインの負荷時間が1日400分、停止が合計80分なら、稼働時間は320分。稼働率は 320 ÷ 400 = 80% となります。ライン単体であれば、この計算でつまずくことはあまりありません。問題は、複数のラインや期間をまとめて「全体の稼働率」を出すときに起こります。
単純平均が実態とずれる理由
Aさんがやっていたように、各ラインの稼働率をそのまま足して台数で割る——これが単純平均です。一見もっともらしいのですが、ここには落とし穴があります。
具体的な数字で見てみます。次の3ラインがあるとします。
| ライン | 負荷時間 | 稼働時間 | 稼働率 |
|---|---|---|---|
| A | 800分 | 720分 | 90% |
| B | 800分 | 680分 | 85% |
| C | 100分 | 60分 | 60% |
単純平均で計算すると、(90 + 85 + 60) ÷ 3 = 約78.3% です。
しかし、ラインCはそもそも負荷時間が100分しかなく、AやBの800分に比べて、工場全体に占める比重がごく小さいラインです。それを90%や85%のラインと「1対1」で平均してしまうと、稼働率の低いCが全体の数字を実態以上に引き下げてしまいます。
つまり、単純平均は「規模の違い」を無視しているのです。大きなラインも小さなラインも同じ1票として扱うため、全体像をゆがめてしまいます。
正しくは「加重平均」 — 時間で重みづけする
ではどう計算するのが正しいのでしょうか。答えは 加重平均 です。加重平均とは、それぞれの値を、その大きさ(重み)に応じて重みづけしてから平均する方法です。
稼働率の場合、重みにあたるのは 負荷時間 です。各ラインの稼働率を負荷時間で重みづけする——といっても難しいことはなく、要は 全ラインの稼働時間の合計を、全ラインの負荷時間の合計で割る だけです。
全体の稼働率 = 稼働時間の合計 ÷ 負荷時間の合計
先ほどの3ラインで計算してみます。
– 稼働時間の合計:720 + 680 + 60 = 1,460分
– 負荷時間の合計:800 + 800 + 100 = 1,700分
– 全体の稼働率:1,460 ÷ 1,700 = 約85.9%
単純平均では78.3%、加重平均では85.9%。その差は約7.6ポイントにもなります。実態としては、工場の大半を占めるAとBがしっかり動いているため、全体の稼働率は85%台が正しい姿です。単純平均は、比重の小さいラインCに引っ張られて、実態より7ポイント以上も低い数字を報告していたことになります。
この差は、複数月をまとめて「四半期の稼働率」を出すときにも、まったく同じ構造で発生します。稼働日数や負荷時間が月ごとに違うのに、月次の稼働率を単純平均してしまうと、操業の少なかった月が不当に大きな影響を持ってしまうのです。
なぜ現場で単純平均が使われ続けるのか
加重平均の考え方自体は、決して難しいものではありません。それでも単純平均による集計が現場に残り続けるのには、理由があります。
ひとつは、手作業のExcel集計では、単純平均のほうが「作りやすい」ことです。各ラインの稼働率という「出来上がった数字」だけが手元にあると、それを足して割るのが自然な流れになります。重みづけに必要な負荷時間や稼働時間を、ラインごとに引っ張ってきて合計し直すのは、ひと手間増えます。その手間を惜しんだ結果、単純平均が選ばれてしまうのです。
もうひとつは、間違いに気づきにくいことです。単純平均でも、それらしい数字は出てきます。ラインごとの規模が近ければ、加重平均との差はわずかで、ずれが表面化しません。ところが、規模の異なるラインや、操業日数の違う月が混ざった瞬間に、Aさんのケースのように実態と乖離した数字が経営会議に上がってしまいます。
これは「計算を知らない」という問題というより、手集計の都合が、正しい集計方法を押しのけてしまうという運用の問題です。正しい平均のとり方を知っていても、毎月の集計でそれを揺らがせずに実行し続けることのほうが、実は難しいのです。
まとめ
現場で単純平均が使われ続ける本当の原因は、計算知識の不足ではなく、手作業のExcel集計では単純平均のほうが作りやすく、間違いにも気づきにくいという運用面にあります。正しい計算方法を知ることと、その方法を毎月ブレずに実行し続けることは、別の課題です。
弊社では、この「正しい計算を、同じ前提で測り続ける」という製造現場の課題に向き合うため、電子帳票や日報のデータをそのまま接続し、稼働率を自動算出する「KPIナイセイくん」を準備しています。負荷時間や稼働時間を一度つないでしまえば、複数ラインも複数期間も自動で加重平均され、単純平均による報告ミスが起きる余地そのものをなくせます。
稼働率の数字を経営に上げる前に、「その平均は加重平均になっているか」を一度確かめてみてはいかがでしょうか。
